2015年10月3日土曜日

映画「ナイトクローラー」の感想



映画「ナイトクローラー」を観てきました。
最寄りの上映館「浦和ユナイテッド・シネマ」で封切りするのを2週間待って、先週土曜日にやっと。
物語の白眉である「グラフィカル(グラフィックだったかな?)な絵」のところに差し掛かったとき、正直言って猛烈に後悔しましたね。
「なんでこのタイミングで観ちゃったんだよ、私!」と。

富裕層が住む住宅街で起きた一家皆殺し殺人事件の現場に、良心の呵責が一切ないサイコパスとおぼしきパパラッチ野郎の主人公ルイスが土足で勝手に踏み込んで好き勝手に撮影するあのシーンです。
あのシーンで、忘れかけていた例の記憶がまざまざと蘇ってきました。
マイタウン熊谷を襲ったあの連続強盗殺人事件の記憶が。

自分で言うのも何なんですけど、今回の一件では周囲の人が思ってる以上に混乱したし、世間から取り残された感ありますからね私。
なんでこんなに人が少ない熊谷で、何の罪もない人たちがあんなひどい目に遭わなければいけなかったの?なんで伊勢崎から前橋に出たの?もし小田原・熱海行きに乗れてたら、こんなことはおこらなかったの?もし高崎で降りてたら成田行きのバスに乗れたの?なんで石原駅周辺だったの?とかとか…いまだに混乱して気持ちの整理がついていません。
あとついでに、この事件を盾に難民受け入れ拒否を表明する人に対しては一言言いたい。

関係無さすぎて、へそが茶を沸かすわ!

さて、熊谷殺人事件の話は自分の中では全然未消化なのでこのへんにしておいて、ナイトクローラーの話に戻ります。



「ナイトクローラー」のあらすじ

チェック:第87回アカデミー賞脚本賞にノミネートされたサスペンス。事件や事故現場に急行して捉えた映像をテレビ局に売る報道パパラッチとなった男が、刺激的な映像を求めるあまりに常軌を逸していく。脚本家として『ボーン・レガシー』などを手掛けてきたダン・ギルロイが、本作で監督に初挑戦。『ブロークバック・マウンテン』などのジェイク・ギレンホールを筆頭に、『マイティ・ソー』シリーズなどのレネ・ルッソ、『2ガンズ』などのビル・パクストンらが出演。報道の自由のもとで揺らぐ倫理という重いテーマが、観る者の胸をざわつかせる。

ストーリー:人脈も学歴もないために、仕事にありつけないルイス(ジェイク・ギレンホール)。たまたま事故現場に出くわした彼は、そこで衝撃的な映像を撮ってはマスコミに売るナイトクローラーと呼ばれるパパラッチの姿を目にする。ルイスもビデオカメラを手に入れ、警察無線を傍受しては、事件現場、事故現場に駆け付ける。その後、過激さを誇る彼の映像は、高値でテレビ局に買い取られるように。やがて局の要望はエスカレートし、それに応えようとルイスもとんでもない行動を取る。

シネマトゥデイから引用


ナイトクローラーのストーリーを一行で表現すると、

「クソゲス野郎のブラック・サクセスストーリー」

です。

主人公は何のコネも学もないので安定した職につけない、という点では同情の余地はあるのですが、冒頭早々で生活の糧を得るために窃盗を厭わない、犯行時の表情から悔恨の念がまったく感じられないサイコパスの気があるゲス人間だということが示されます。
なので最初から彼に一切の感情移入ができない人がほとんどだとは思うのですが、彼がサクセスの階段を登りつめつつあるのに対して、なんだかうれしく思ってしまう自分がいるのは否めませんでした。
最低の手段をとっているとはいえ、コネがないなりに工夫している姿を見ると、私もフリーランスなものですから、自己投影というのか、なんか応援したくなる何かがあるんですよねー。

ただ彼が暴走をしていく最中「誰か止めろよ!」と呆れている自分も一方ではもちろんいます。
その暴走を止めるどころか助長させ、同時にカメラマンとしての成長も促す重要な役割を担っているのが、視聴率至上主義を体現したニュース番組ディレクター・ニーナ(レネ・ルッソ)。
倫理を無視した演出手法に終始呆れるのですが、彼女も二年契約の雇用であるということが途中で明かされます。
二年目に入った彼女は、今のうちに結果を出さないと契約更新はないので、とにかく焦っていて、ゆえに「グラフィカルな絵」を欲しているというわけです。
最近Twitterで安住アナbotがつぶやいた「外国のキャスターはフリーが基本」というのを思い出しました。


不安定な雇用の問題が提示されるのは、主要人物の二人に限りません。
もし雇用問題がなければ、あのホームレス同然の生活をしていた青年リック(リズ・アーメッド)はルイスの数々の悪行に巻き込まれて破滅的な結末(このシーン二回出て来るんですけど一回目は悲鳴が出たし、二回目は心の中でだけですけど「すげーーー!!すげーーー!!ナニコレすげーーー!!」ってずーっとつぶやいてました)を迎えることもなかったはずですし、ルイスに蹴落とされるライバルの先輩パパラッチ(ビル・パクストン)だってあんな目には遭っていないはず。
アメリカにかぎらず、昨今の日本の派遣法改正や、ついでに(間接的に熊谷の事件にも繋がる)外国人の労働環境問題なんかも同時に考えてしまいます。

また警察署内での取り調べに対して、彼は監視カメラへ目線を向けてニヤつきながらこう言います。
「これはワイドアングルで撮っているのか?」と。
このシーンでは、警察に対してというより、スクリーンのこちらがわに対して「俺の姿はお前らの目にどう写っているのか」と問いかけられているような感覚に陥り、ドキっとします。

「生活のためだったら倫理を無視して、何をやっても許されるのか?」

というこちらの問いに、

「お前らの見たかった映像を提供してやってるんだ。感謝されてもいいくらいだぜ」(ギョロ目を見開いて)

という解答を投げかけられたような、そんな気分になるシーンです。

そこでまた熊谷の殺人事件の話に戻るのですが(戻っちゃうよねー)先日久しぶりに帰った実家で、事件に関連した報道やワイドショーを初めて見た(自宅にテレビが無いので)のですが、その演出方法にはいろいろ思うことがありました。
おそらく面白く見せるためにカットバックという演出がなされていたんですが、時系列がぐちゃぐちゃで情報が正確に伝わりにくくなるからやめてほしいなあと。
あとこの事件を面白おかしく装飾されるとイラつくんだけど、という思いもあり。
でも「おもしろいでしょ?ドキドキして続きが気になるでしょ?チャンネル変えられなくなったでしょ?」ってことなんですよね。
これが私たちの見たいもの、なわけですよ。
「見たくないなら見なければいい。見たいなら文句言うな」の世界です。
ショッキングな映像の向こう側から「おまえらがこのゲス映像を要求してるんだろ?」とギョロ目のルイスの声が聞こえてくるような、そんな気がしました。


そうそう。ナイトクローラーを観ようと思ったきっかけになったのは、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」内のムービーウォッチメンを聴いたからなんですよね。
連続強盗殺人がおこる2日前の9月12日放送分の。
音声を貼ろうと思ったんですけど、著作権的にアレなので、YouTubeで「宇多丸 ナイトクローラー」とかで検索してみてください。
すんごく面白いです。
宇多丸さんが指摘していた「水やりしている植物がまったく育っていない」描写が出てきたときは「確かに全然成長してない!www」と思いました。
さすがシネマンディアス、目の付け所がさすがだぜ!w
やっぱテレビよりラジオの方がおもしろいよ。私はね。ラジオ最高!フォーーーー(ちょっと宇多丸さん意識してみた)

「ジェイク・ギレンホールのギョロ目を彷彿とさせる(宇多丸談)」


映画「ナイトクローラー」公式サイト

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